幸介からのメッセージ2004/02/10
静かな音楽が好きだ。
音楽は、静かでなければならない。
それはけっしてゆずることの出来ない境界線のようなものだ。
ものすごく音の大きな静かな音楽を僕は知っている。
音の量じゃない何かがそれを静かな音楽にするらしい。
素敵じゃないか。
音楽が音楽のために存在している音楽、そんなものだろうか。
僕は、考えている。まだ、よくわからない。
今日もまた、日が暮れてしまった。
僕は音楽を聴く。よく聴く。朝から晩まで、ずっと聴く。
よく飽きないものだとあきれてしまう。
たぶん僕は音楽が好きなのだと、その単純な事実に驚かされ
てしまう。
もしオリンピックでもあれば、きっと僕は表彰台に上がれる
に違いない。
で、ふと思うのだ。
音楽を演じる者たちは、音楽以外の言語で何も話さないほう
がいいんだけどな、と。
それが、静かな音楽への入り口だ。
それは、静かな音楽からの出口だ。
今日もきっとどこかで、誰かが、その扉を開けたり閉めたり
しているんだろう。だから僕はいつも出来るかぎりの知らん
ぷりを決めこんで、ただ音楽が流れ出すその瞬間を待ってい
る。
いろんな人が自分の音楽について語る。
ここはこんな意味だとかなんとか、そんなふうなことを恥ず
かしげもなく話す。
たいがいはハッタリだし、インチキだし、ただ立派に見える
衣装を身にまといたいだけなのに・・・・。
ふう・・っ。
やれやれ・・・・。
僕も、黙ってばかりはいられないらしい。
それなら、いっそのこと、音楽でも聴こう。
そして、そこで演奏したり唄ったりしてる彼や、彼女や、彼
等のはなしをしよう。
それくらいなら僕にも出来るかもしれない。
# Tom Pacheco " Woodstock Winter "
寒い日に、部屋を暖かくして、聴く。
それがこのアルバムの正しい聴き方だ。
雪の降る曲がいくつもある。
遠い町、ウッドストックに降る雪。
その白さや冷たさ、美しさや厳しさに思いをはせ、語られる
言葉に耳を傾ける。と、彼の物語は、僕の物語でもあるとわ
かる。
良いストーリー・テラーとは、こういう人のことを言う。
ジェリー・ガルシャのことを唄った「Jerry's Gone」、ロバート・
ジョンソンに捧げた「Hey Hey Robert Johnson」なんて曲もある。
遠い空では、雪が降りつづけている。
僕は、寒い町に住む友人たちの顔を思い浮かべ、みんな元気
かなと思う。
これは、僕の冬の宝物だ。
# Kinks " The Ulutimate Collection "
レイ・デイヴィスのような人は、ほかにいない。
レイ・デイヴィス、しかいない。
当たり前ことだけど、そんなことはあまりない。
彼は、羊の皮をかぶった狼であり、狼の皮をかぶった羊でも
ある。キンクスというバンドは、そんな唯一無比な男に導か
れるまま長い旅をしてきた。そっと耳をかたむければ、その
旅がどれほどの豊潤な実りをもたらしたか、ちゃんとわかる。
あの曲もこの曲も入ってないけれど、あの曲もこの曲もこん
なにいい曲だったのかとあらためて気付かされる。
これは、そんなとても誠意と敬意に満ちたいいコンピレーシ
ョン(2枚組)だ。
「大英帝国万歳 !」と叫びたくなる気分をこらえ(僕は日本人だ
からね)、ここは「レイ・デイヴィス万歳!」と叫んでおこう。
# Lindisfarne "The Very Best Of Lindisfarne"
リンデスファーンの「ミート・ミー・オン・ザ・コーナー」は、
リトル・フィートの「ウイリン」、ニュー・ライダース・オブ
・ザ・パープルセイジの「ヘンリー」とならぶ、僕が好きな3
大ドラッグ・プッシャー・ソング(?)のひとつだ。
3枚のアルバムから18曲、未発表が2曲。で、計20曲。
あの曲もこの曲も、きちんと収録されていて、これもいいコ
ンピレーション。
春の陽だまりのようなサウンドにアラン・ハルのさらっとし
たまだ眠そうな声が乗っかって、それがリンデスファーンだ。
来日公演は、このブックレットによると、1973年1月とある。
確か、大阪の厚生年金会館の中ホールで彼等を観た。楽しい
ステージだった。陽気なライブだった。祈りたくなるほどに
ガラガラな客席をもとをものともせず、連中は唄い、踊った。
あの日感じた、あのかけがいのないあたたかい気分を今でも
はっきりと思いだすことが出来る。
僕は、そして僕等は、手のひらが痛くなるほど拍手したはず
だ。1曲終わるごとに拍手は、不思議に、確かに大きくなっ
ていった。きっと客席にいる誰もが、はるばる海を越えやっ
てきた彼らに伝えたかったにちがいない。君達は、素敵だ。
なによりいい演奏をありがとう、と。
笑顔だけがあとに残った帰り道だった。
思い出はいいものだと思う。
その中心に音楽があるときには、特にね。